近年、新卒の採用活動で内定者に親の意向を確認する「オヤカク」を行う企業が増えています。オヤカクは具体的に何をすれば良いのか、他社はどうしているのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
オヤカクをする際は、内定者や候補者の親にも自社のことを知ってもらい、信頼を得ておくことが大切です。本記事では、オヤカクの実態や具体的な施策、実施する際のポイントについて詳しく解説します。内定辞退の増加で苦労している方は、ぜひご覧ください。
オヤカクとは
オヤカクは「親に確認」の略称で、内定者や候補者に対して、親は入社に賛成しているかどうかを確認することを指します。2016年ごろからメディアで取り上げられており、オヤカクをする企業は年々増えています。
マイナビが23卒の保護者に調査したところ「オヤカクを受けたことがある」と答えた人は52.4%にのぼりました。最近では、オヤカクと似たものとして「オヤオリ」と呼ばれる、保護者向けのオリエンテーション(説明会)を実施する企業もあります。
参考:2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査 | マイナビ
オヤカクが広まった背景
オヤカクが広まった背景には、大きく2つの要素があります。
- 内定辞退の増加
- 親子関係の変化
それぞれについて詳しく解説します。
内定辞退の増加
上記のグラフは、リクルートが24卒の採用活動について調査した結果です。棒グラフはそれぞれ、「採用予定数」「内定出し人数」「内定辞退人数」「内定人数」を表しています。
この調査によると、24卒の採用予定数を100とした場合、平均で156.6人に内定を出して74.3人に辞退され、最終的な内定人数が80.7人になるという結果になりました。あくまで平均ではありますが、内定を出しても半数近くが辞退してしまうことが分かります。
辞退の理由には「家族からの反対」も一定数含まれるため、オヤカクによって内定辞退を防ぎたいと考える企業が増えているのです。
親子関係の変化
最近は、昔に比べて親子の距離感が近づいていると言われています。少子化もあって、1人ひとりの子どもに対する関心が高まっているのが特徴です。子ども側も「反抗期が無い」「何でも相談できる」「友達のように一緒に出掛ける」という人が多く、仲の良い親子が増えています。
親子の距離感が近づくと、必然的に就活でも親に相談したり意見を求めたりする機会が増えます。そのため、親の目から見て「そんな会社で大丈夫なのか?」「やめた方がいいのではないか」と言われることがないよう、企業が親から認められることも重要になっていると考えられます。
親が子どもの就職先に求めるもの
引用:2023年度 就職活動に対する保護者の意識調査 | マイナビ
ここからは、親が子どもの就職先に求めるものについて、2つの調査結果をもとに解説します。
上記は、マイナビが就活生の保護者に「子供が入社する企業について、どのような特徴のある企業がよいか」と尋ねた結果です。1位は「経営が安定している(48.6%)」で、2位の「本人の希望や意志に沿っている(22.7%)」や3位の「企業の成長性が見込める(16.4%)」とは大きく差が開く結果となりました。
引用:就職活動における「企業」と「親」に関する調査|ネオキャリアのプレスリリース
続いて、こちらはネオキャリアが「親が希望するオヤカク施策」について調査した結果です。トップ3は「企業情報資料の送付」「親向けの内定理由通知書」「親向けの内定同意書」となりました。
2つの調査結果を総合すると、就活生の親には「子どもには安定した企業に就職してほしい」「正式な書類を見て安心したい」という気持ちがあることが分かります。
オヤカクの具体例
ここでは、オヤカクの具体的な方法や事例について見てみましょう。
- オヤカクの方法
- 事例:大阪府内のIT企業
オヤカクの方法
オヤカクの方法には、次のようなものがあります。
- 会社案内やIR情報を送付する
- 採用ページに保護者向けのページを開設する
- 保護者からも内定同意書をとる
- 内定承諾後に、自社製品と手書きの手紙を送付する
- 内定承諾後に、挨拶の電話をかける
- 保護者向けの企業説明会を開催する
- 保護者同席の内定者懇談会を開催する
一部の企業では、保護者向けの説明会や懇談会を開催する際、会場までの交通費や宿泊費の補助までしているそうです。各社とも、就活生の保護者に自社を知ってもらい、信頼してもらうために、手間とコストをかけてアピールしていることがわかります。
事例:大阪府内のIT企業
NHKの特集では、大阪府内のあるIT企業で行われた「オヤオリ」が取り上げられています。この企業では、2023年12月に24卒の内定者と保護者を対象とした説明会が開催されました。説明会の目的は、保護者と一緒に職場を見てもらい、会社への理解を深めてもらうことだそうです。
説明会の内容は、仕事内容や業績の説明、オフィスツアー、先輩社員を交えた懇親会などでした。あえて平日の夕方に開催することで、実際に社員が働く様子が見られるように工夫されています。
説明会に参加した内定者親子は、次のようにコメントしています。
母親「息子が働く職場が気になったので来ました。息子が会社の人と話す様子も見ることができて、もうなじんでいるんだなと安心できました。来てよかったです。」
内定者「母が会社の人と何を話すのか、恥ずかしさもありましたが、どんな会社か知ってもらえたし、他の内定者の家族とも仲よくなれたのでよかったです。」
オヤオリの開催によって、保護者の信頼を得られるのはもちろんのこと、内定者本人のモチベーションを高める効果もありそうです。
参考:広がる「オヤカク」就職活動に保護者も関わる時代に? | NHK | WEB特集 | 就活
オヤカクで押さえるべきポイントは3つ
オヤカクをする際に、押さえるべきポイントは3つあります。
- 経営状態
- 働きやすさ
- 人間関係
それぞれ詳しく解説します。
経営状態
オヤカクでは、自社の経営状態について、数字を用いてきちんと説明することが大切です。
前述した「子どもの就職先に求めるもの」の調査でも、経営の安定は2位以下に大差をつけてトップになっていました。経営状態が不安定な企業の場合、保護者が「倒産してしまうのではないか」と心配するのも無理はありません。
さらに、中小企業や創業して間もない企業の場合、保護者が「企業の名前を知らない」という理由だけで、入社を反対するケースもあります。
保護者の信頼を得るためには必要に応じて、売上や利益の推移、事業計画、取引先などを開示することも検討しましょう。
働きやすさ
オヤカクでは、自社の働きやすさをアピールすることも有効です。
最近は有名企業でも、長時間労働や賃金の未払い、法令違反などがニュースになることがあります。そのため、我が子がそのような環境に置かれることを心配する保護者は多いです。
残業抑制への取り組みや、福利厚生を紹介することで、安心して働ける職場であることをアピールできます。また、従業員満足度を公表したり、既存社員のインタビューや体験談を紹介するのも良いでしょう。
可能であれば、上記の大阪のIT企業のように、オフィスツアーや懇談会を開催して、実際に職場を見てもらうと効果的です。
人間関係
安心して働くためには、職場の良好な人間関係も欠かせません。こればかりは人間同士の相性もあるため、実際に入社してみないと分からない部分が多いのも事実です。
ただ、オヤカク対策をするなら、少なくともパワハラ・セクハラ防止に関する取り組みは伝えておきましょう。若手社員が職場になじんで活躍する様子を見てもらうのも有効です。
この他、経営陣からのメッセージとして「大事なお子さんを、弊社で一人前の社会人に育てるので安心してください」と伝えると、さらに信頼を得やすくなります。「成人している人に対してそこまでのフォローが必要か?」という意見もありますが、実際に保護者に反対されて内定辞退する人がいることを考慮すると、やっておいて損はありません。
オヤカクは、今や保護者の半数以上が経験する就活の常識となりつつあります。就活生の保護者にも自社を知ってもらい、信頼を得ることで、内定辞退を防ぐことが期待できます。オヤカクをする際は、経営状態や働きやすさ、人間関係などのポイントを押さえて、情報を提供するようにしましょう。