近年、AIやIoTなどのデジタル技術の普及やグローバル化による国際競争の激化など、企業を取り巻く経済環境は大きく変化しています。そのような状況の中、新卒の採用市場では理系学生の需要が非常に高まっています。
理系学生は、大手企業を志望する傾向が強いため、特に中小企業では理系学生を、新卒で採用するのは困難な状況で、頭を悩ませている採用担当者も多いのではないでしょうか。
しかし、アプローチの仕方次第では、優秀な理系学生を採用することは可能です。今回は、理系学生を新卒採用するための効果的な方法とポイントについてご紹介します。
理系学生採用の現状と課題
採用市場では、理系学生の需要が高まっていると言われています。
まずは、理系学生の採用の現状と課題についてみてみましょう。
理系学生は減少
文部科学省が平成27年に発表した「理工系人材育成戦略」のデータを見ると、理・工・能楽分野の学生は、平成11年度をピークに減り続けています。
その原因には、少子化だけでなく、子どもの理系学科に対する興味の低下や理系大学の学費の高さなどによる理系離れも影響していると考えられます。
理系学生の需要は増加傾向
冒頭に述べた、デジタル技術の普及などテクノロジーの発達に伴って、医療、機械、電子電気、食品、化学、建築、IT、SIなどさまざまな業界で、技術開発や商品開発、マーケティング、データ分析などができる理系の人材が求められています。
政府は、IT人材を含めた理工系人材の育成に力を入れていますが、理系学生の需要は、今後ますます高まると予想されます。
理系学生の就職活動の状況
研究施設や研究体制が充実していて、キャリアアップが目指せるといったイメージから、文系学生と比べると理系学生は大手企業を志望する傾向が強くなっています。
採用が難しいといわれる理系学生ですが、どのような就職活動をしているのでしょうか。
理系学生は就活に費やす時間が少ない
理系も文系も大学生の多くは、3年生までに単位を取り終えて、4年生では講義にはあまり出席しません。
しかし、理系学生は、3年生の後半から研究室に入るため、文系の学生に比べて、忙しく就職活動に費やす時間が十分に取れません。そのため、企業説明会やインターンシップに参加する機会が少ない傾向にあります。
大学院に進学する学生が多い
理系学生が進路を考える際には、まず就職するか大学院に進学するかという選択肢があります。理系学生は、これまで学んで研究してきた分野の専門性を高めるため、文系学生より大学院に進学する傾向が高くなっています。
そして、大学院を卒業して修士号の学位を取得した学生は、身につけた専門知識を活かして、研究機関や大手企業の研究開発部門への就職を希望するケースが多くなっています。
学校や教授の推薦で就職先を決定する
理系学生の中には、文系学生が行うような一般的な就職活動をあまり行わずに、学校や研究室の教授が推薦する企業に就職する学生が多くいます。
そのため、積極的に就職活動を行わないため、新卒採用市場で、つながりのない企業がアプローチする機会があまりありません。
代表的な理系学生採用の手法とポイント
理系学生を採用するための代表的な手法とポイントについて解説します。
代表的な採用方法
就職ナビや就職サイトへの掲載
文系学生同様に理系学生を対象とした採用活動でも、自社に興味を持ってくれる学生、いわゆる「母集団」を形成することが大切です。母集団を形成するためには、まずは多くの学生に自社について知ってもらう必要があります。
多くの学生に情報を発信する方法として、一般的なものには就活ナビや就活サイトへの求人掲載があります。就職ナビや就職サイトの中には、理系に特化したサービスがあり、ターゲットである理系学生に、求人情報や自社の魅力について伝えることができます。
また、就職ナビや就職サイトでは、理系学生向けの合同会社などのイベントも開催しており、参加することでアプローチが難しいと言われる理系学生に効率的に接触できる可能性もあります。
大学や研究室との連携による推薦
前述のとおり、理系学生は大学や研究室の教授の推薦で、就職先を決めるケースが少なくありません。社員の母校などのつながりから、大学や研究室との関係を構築することは、理系学生採用の有効な手段です。
OB社員から研究室の教授や学生に自社の魅力を伝えてもらうことで、継続的に優秀な人材を獲得できる可能性もあります。
新卒理系に強い人材紹介サービス
人材紹介サービスの中にも新卒の理系学生に特化したサービスがあります。人材紹介サービスは、企業が求める人物像と学生が希望する条件と合った場合に紹介してくれるため、応募時や入社後のミスマッチを避けることができます。
リファラル採用
リファラル採用は、自社で働いている社員から人材を紹介してもらう採用手法です。社員とつながりのある理系学生と出会うことができ、社員を通じて自社の雰囲気や魅力を伝えやすく、入社後のミスマッチも防げると言われています。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングは、サービスに登録している学生に「オファー」を出して、直接アプローチできる採用手法です。研究室や技術といったキーワードで絞り込んで、自社のニーズに合った理系学生にオファーを出して、コミュニケーションを取ることができます。
理系学生採用のポイント
理系学生のスケジュールに配慮した採用日程
先ほども書きましたが、理系学生は文系学生と比べると、就職活動にあまり時間が取れません。
3年生の後半からは研究室に入らなければならないため、企業の選考スケジュールが決まっても、合わせることが出来ない場合もあります。
そのため企業の採用担当者は、理系学生の就職活動のスケジュールを把握しておくことが必要です。
選考に持ち込みたいターゲットの学生とは、しっかりとコミュニケーションを取り、研究室の予定を確認するなど、支障がないように選考スケジュールを組みましょう。
ただし、配慮して他社より出遅れることがないように、学生の動きだけでなく競合となる他社の採用スケジュールも把握しておくことも大切です。
また、最近は新型コロナウイルス感染症の感染対策として、対面ではなくオンラインで行うWEB面接を行う企業が増えています。WEB面接であれば、忙しい理系学生も大学や自宅、カフェなどで面接試験を受けることができます。
自社の魅力や仕事内容について具体的に紹介する工夫
ひとことで理系といっても、さまざまな専門分野に分かれています。ほとんどの理系学生は、自分が学んできた専門分野の知識を活かせる仕事に就きたいと思っています。一方で、ホームページやパンフレットなどで、具体的な仕事内容について知ることができる企業は多くありません。
文系学生は、理念など企業の想いに共感して応募する学生が多いですが、一方で、理系学生が入社してどのような仕事ができるのかを重視して、志望する企業を決める学生が多い傾向にあります。
入社後に具体的にどのような仕事に関われるのか、大学で学んだ専門的な知識をどう活かせるのかを、しっかりと学生に伝えることが応募につながるだけでなく、入社後のミスマッチを防ぐことにもなります。
中小企業は大手企業にない魅力を伝える
理系学生は大手企業を志望する傾向が強いですが、全ての理系学生が大手企業を選ぶわけではありません。たしかに大手企業は、研究設備や研究体制が充実しています。しかし、学生が企業を選ぶポイントには、「企業の雰囲気が自分に合っているか」「入社してやりたいことができるか」「職場環境や人間関係が自分に合っているか」などさまざまな条件があります。
大手企業にはない自社の強みや魅力を、学生に伝えることが大切です。企業によっては当たり前と思っていることでも、学生にとって魅力的に感じることは多くあります。自社の強みをしっかりと分析して、学生が求めている魅力に合わせてアピールしましょう。
目的に合わせた情報発信
採用媒体には、就職サイトや自社ホームページ、WEB広告、パンフレットなどいろいろなものがあります。採用媒体は、目的やターゲットに合わせて使い分けることが大切です。また、何を伝えるかだけでなく、どのように伝えるのかも工夫してみましょう。
内定者フォローが重要
理系学生が内定を獲得した後にも、研究室に通わなけれななりません。そのため内定後にも、なかなか直接会う機会が取れないケースが多くあります。理系学生であっても文系学生であっても、入社に対して不安な気持ちを持つのには変わりがありません。
内定者懇親会や研修会を行っても参加できないこともあるでしょう。少しでも不安を感じず入社式が迎えられるように、電話やメールなどで頻繁に連絡してフォローすることが大切です。
まとめ
少子高齢化や学生の理系離れによって理系の学生数は減少傾向にあります。一方で、専門的な知識を持った人材の需要は高まっていて、理系学生の採用は難しい状況となっています。
加えて、新卒で採用できても、転職するリスクが高いのも理系学生です。
理系学生に合わせた採用活動をすることができれば、大手以外の企業も優秀な理系学生の採用が可能です。戦略的に採用活動を進めることで、求める理系学生を獲得できるだけでなく、ミスマッチを防ぎ定着率の向上も期待できます。